明治二十三年の肖像

-上野松次郎と継承の記録-

明治23年に撮影された肖像画(表面)

-裏面に記載されている文字-
「明治二十三年三月」(1890年)
「東京浅草 江崎禮二寫之」
「上野松次郎真像」

第一章 三代目上野松次郎の肖像画
 

明治二十三年三月。
 
浅草の写真師・江崎禮二により撮影された一葉の肖像。
 
そこに写る人物は、
宇都宮の商いを支え、
上野家の一時代を築き上げた三代目上野松次郎である可能性が高いと考えられます。
 
その姿には、
長年商いを支えてきた人物ならではの落ち着きと、
円熟した静かな風格が漂っています。
 
また、この肖像画の裏面には、
 
 
「明治二十三年三月」
「東京浅草 江崎禮二寫之」
「上野松次郎真像」
 
との記載が残されていました。
 
百三十年以上の時を経て残されたこの一枚は、
単なる古写真ではなく、
上野家の歴史を現代へ伝える貴重な記録といえるでしょう。
 

第二章 三代目から五代目への継承
 

 
上野家の時代の転換点を築いた三代目松次郎。
 
その姿には、
上野家の礎を築いた人物としての重みと、
長年にわたり商いを支えてきた静かな円熟が刻まれています。
 
一方で、この肖像画は、
家督を継いだばかりの五代目が、
先代の姿を記録として残したものとも考えられます。
 
明治二十三年。
 
五代目上野松次郎は、
四代目から家督を受け継ぎ、
新たな時代へ歩み始めようとしていました。
 
その継承の流れは、
単なる父子相続ではありませんでした。
 
三代目から長女へ、
さらにその娘である上野タミへ。
 
上野家は、
時代の変化の中で、
「家」を守りながら継承を重ねてきました。
 
そして、
その上野タミとともに、
新たな時代を切り拓いていったのが、
五代目上野松次郎でした。
 
この肖像画には、
そうした上野家独自の継承の歴史までもが、
静かに刻まれているのかもしれません。
 
新しい時代を切り拓こうとする五代目の決意と、
それを静かに見守る三代目の存在が、
一枚の肖像画には、重なり合っているのです。
 
この一枚が最も雄弁に語るのは、
単なる人物像ではなく、
代を越えて受け継がれていく
「継承」
の物語なのかもしれません。
 
先代から後継へ。
 
上野松次郎の名と商いが受け継がれていく、
その節目の時代の空気が、
この肖像には静かに刻まれています。
 

第三章 写真家「江崎禮二」とは
 

 
この肖像画を撮影した「江崎禮二」は、
明治時代を代表する写真師の一人でした。
 
明治天皇の御真影をはじめ、
渋沢栄一、
福澤諭吉など、
日本近代史を彩る多くの人物の肖像を撮影したことで知られています。
また、
浅草十二階(凌雲閣)の建設にも関わった人物として知られ、
当時の東京文化を象徴する存在でもありました。
 
その江崎禮二の名が、
この肖像画の裏面には記されています。
 
宇都宮の実業家であった上野家と、
近代東京文化の一端とが、
この一枚の肖像によって静かにつながっていることを感じさせます。
 

編集後記
 

 
上野家自宅の蔵の奥から発見された、
この一枚の肖像画。
 
そこに写る上野松次郎の眼差しは、
百三十余年の時を超えた今もなお、
静かに私たちへ語りかけています。
 
地域を支え、
商いを守り、
次代へつないでいくこと。
 
その積み重ねこそが、
上野家の歴史であり、
株式会社上野へと受け継がれてきた精神なのかもしれません。
 
この肖像画は、
単なる過去の記録ではなく、
 
「継承」
 
という上野家の歩みそのものを映した一枚であるように感じられます。
 

三代目・上野松次郎の人物紹介
 

 
三代目上野松次郎(幼名:栄次郎)
1835(天保6)年、
初代上野松次郎の次男として生まれる。
 
1855年(安政2)、
兄・二代目松次郎の死去後、
その妻との婚姻により三代目松次郎を襲名。
 
商才に優れ、
家運を大いに発展させた人物として伝えられている。
 
製油工程で副産物であった油粕に着手し、
これを肥料として販売することで、
後の肥料商としての基盤を築いた。
 
1848年(弘化5)作成の
「宇都宮金満家番付(現在の長者番付)」にも
有力商人として名が記されている。
 
1877年(明治10)、
四十一歳の時に家督を長女へ譲り、
隠居。
 
1916年(大正5)、
行年八十二歳にて没。
 
その歩みは、
上野家が油屋から肥料商へ、
さらに近代実業へと発展していく重要な礎となった。
 

宇都宮金満家番付-1848(弘化5)年作成
最下段左から5番目に
「油類・干鰯 油屋松次郎」として
上野松次郎の名が刻まれている。

【本企画について】
本アーカイブは、上野家に伝わる史料・写真・記録類をもとに、歴史資料として再構成した特別企画です。
・文章構成・編集:歴史アーカイブ制作チーム
・史料提供・内容監修:上野拓也(株式会社上野 代表取締役)