第一幕 なぜ俊三は、この二つの木箱を残したのか。
-後世へ託された、静かな問い-
文庫蔵の整理を進める中で、
二つの木箱が見つかりました。
一つには、
六代目・上野順一が
十四歳から十七歳にかけて書き写した
膨大な写経や文学作品。
もう一つには、
日本画の手本や絵画教材が
丁寧に収められていました。
一見すると、
それらは青年時代の学習資料
に過ぎないようにも見えます。
しかし、
箱の表には
七代目・上野俊三による
短い箱書きが残されていました。
「順一 十四〜十七才時」
「順一 日本画手本」
俊三は、
作品名でも作者名でもなく、
「順一が学んだ時期」と「学んだ内容」
によって、
この二つの木箱を整理しています。
この整理の仕方は、
私たちに一つの問いを投げかけます。
俊三は、
なぜ兄・順一の青年期の学習資料だけを、
一つの木箱にまとめて
後世へ残したのでしょうか。
そして、
なぜその年齢まで書き添えたのでしょうか。
本研究は、
その問いから始まります。
私たちは、
この木箱を単なる写経集や日本画教材
として読むのではありません。
一人の後継者が
どのように育てられたのか。
その教育課程の
全体像を読み解くための一次資料として、
静かに向き合っていきます。
ここに収められている一冊一冊は、
単独の作品ではありません。
歴史、
文学、
漢学、
日本画、
そして美意識。
それらが一つの教育体系として
組み合わされ、
一人の人格を形づくっていった
可能性があります。
もしそうであるならば、
この二つの木箱は、
六代目・順一の
青年期を伝える資料であると同時に、
五代目・上野松次郎が
後継者へ託した
教育思想を読み解くための、
極めて重要な史料群でもあります。
本研究では、
結論を急ぐことはいたしません。
一つひとつの資料と丁寧に向き合いながら、
五代目松次郎が
後継者に何を学ばせようとしたのか、
そして、
その教育が後の六代目順一の人格形成に
どのようにつながっていったのかを、
時間をかけて探ってまいります。
研究は現在も進行中であり、
新たな資料の発見や検証結果に応じて
内容を追補してまいります。
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-写経が育てた、六代目順一の世界-
【本企画について】
本アーカイブは、
上野家に伝わる史料・写真・記録類をもとに、
歴史資料として再構成した特別企画です。
・文章構成・編集:歴史アーカイブ制作チーム
・史料提供・内容監修:上野拓也
(株式会社上野 代表取締役)